人魂で 行く気散じや 夏野原

天気が良くて、空気が冷たい。


家を出てすぐは寒かったが、しばらく歩くうちに気持ちがよくなってきた。

日陰は凍えるようだけど、日なたはとても心地よい。


いい日だ。



こんな日は北斎に思いを馳せてみる。

富嶽三十六景ゴッホに影響を与えたことなんかで有名な浮世絵師。

諸国滝廻りなんかもいい。木曽路ノ奥阿弥陀ケ滝は特にいい。


あとは晩年の作品が好きだ。怒涛図とか、八方睨み鳳凰図とか。

八方睨み鳳凰図なんて、88歳とか89歳の頃に描いたと言われている。

現代のアクティブ・シニアもびっくりするようなアクティブさだ。



アクティブなだけでなく、彼は死の間際まで進化し続けた。

本当に死の瞬間まで彼はもがき続けていたことを、北斎の最期の言葉がよく表している。

翁 死に臨み大息し 天我をして十年の命を長らわしめば といい 暫くして更に言いて曰く

天我をして五年の命を保たしめば 真正の画工となるを得(う)べし と言吃りて死す

五年の命を保たしめば 真正の画工と成るを得べし。


「あと5年あれば」と彼は臨終その時に言ったのだ。「真の画工になり得たのに」、と。



でも、今日みたいな日に北斎を思い出すのは、彼の辞世の句のせいかも知れない。

人魂で 行く気散じや 夏野原

気散じは、気晴らしのこと。いいよねえ。

人魂(ひとだま、火の玉。)でってのも北斎らしい。


木田金次郎の話を聞いた時にも思ったけど、こんなじいちゃんになりてえな。