人々は、ほほううと溜息をもらしました。

けふはナシヨナルデイです。
この大きな南の島に遠くの国から偉い人々が遣つて来た記念すべき日を祝います。


皆フラツグを振り或は顔に描く等して街を歩き回ります。
陽気なおじさん等は頭にフラツグの模様が描かれたアンブレラを載せて居ります。
子どもはクリケツトの真似事をし、大層気分のよい一日であります。


夕刻わたくしが手持無沙汰でキツチンに居りますと、何処かから愉しげなさく裂音が響いて来ます。
ショオナさんが「あれはサウスバンクでの花火だね。いや、さうに違いないよ」と仰るので、
わたくしはハンプステツドロオドのいちばん高台までいそいで走つて参りました。


そこには沢山の人が居りました。
皆さんシテイの方を向いて例の花火に見惚れて居りました。


わたくしも皆に倣って、芝生の上に腰を下ろしてそちらに目を向けました。
するとどうでせう。シテイの摩天楼のその真直中で花火がさく裂しているではありませんか。


ニツクがわたくしに向かってこう云います。
「あれだね。まるでビルが自分から爆発している様子だね」


さうなのです。街中でなんとも勢いの足らない花火をあげて居らつしやるので、
それはそれは花火とビルとの競演といつた風情でありました。


ふと思いついて目を閉じてみますと、そこはどこか暗くて埃つぽい外国でした。
兎に角途切れなく射撃が飛んで行きます。真つ黒な空をきれいで透明な明りが切り裂いて行きます。
そうしましたらわたくしは不思議なことに尋常学校での太鼓のレツスンを思い出して居りました。


フイナアレに向けて、花火はいよいよ本番だとばかりに激しく舞い散ります。
皆同じ方角を向いているわたくしの周りの人々は、ほほううと溜息をもらしました。
突然音が鳴り止みましたら、皆さん拍手をなさります。
わたくしも倣ってせいいつぱい拍手を致しました。


しばらく皆続きがあるのではと油断なく息を呑んであちらを見つめておりました。
こんなに遠くから届くはずもないのですが、何人かはアンコオルを主張し叫んで居ります。
ひとり、またひとりと諦めて帰つて行きます。わたくしもシヨオナさんの家に帰ることに致しました。