箱男

これは箱男についての記録である。
ぼくは今、この記録を箱の中で書きはじめている。頭からかぶると、すっぽり、ちょうど腰の辺りまで届くダンボールの箱の中だ。
つまり、今のところ、箱男はこのぼく自身だということでもある。箱男が、箱の中で、箱男の記録をつけているというわけだ。

こんな風にして、この本ははじまる。
古川橋の近くの古本屋で見つけて、買った。
こんなものを見せ付けられたら買わないわけにはいかない。


小さな古本屋って、いろんな本がごちゃまぜで、だからこそ出会いがある気がして、好きだ。


安部公房の本は、まわりから浮いている、かっこよく言えば文脈に依存しない、そんな言葉がいっぱいだ。

希望があるにしても、高精度の分析器をもってしてもまず検出できそうにない、微々たる希望。

信じる理由もないが、疑う理由もない。疑う理由もないが、信じる理由もない。透明で淡すぎる細い首。

囚われた野鳥は、餌を拒んで餓死してしまうという。だが死刑囚は、最後のタバコをうまそうにくゆらせる。

こういう、かっこいい言葉を言うために、でもそれだけじゃ読んでもらえないから、仕方なく物語りにしたんじゃないかって気がしてくる。

本当は「なぜ誰もが、こうニュースを求めるのか」についての文章が最高なんだけど、でも書き写すの面倒だから省略。