生まれ出づる悩み
好きなテレビ番組のうちのひとつ、「美の巨人たち*1」。
今日は、木田金次郎という北海道の画家が取り上げられていた。
一切の美術教育を受けず、北海道の漁村で独自の世界を創り上げた画家。
有島武郎の小説『生まれ出づる悩み』の主人公のモデルとなった人物。
ニシン漁全盛期の北海道・岩内町の網元に生まれた彼は、開成中学校に学び東京で画家を志す。
ちょうど雑誌白樺が発刊され、西洋美術が広く紹介されるようになっていた時分だったそうだ。
しかし漁業とは、不安定な生業である。
かつて海の色が変わるほど取れたニシンが、岩内から消え去る。
そうして彼は、東京で画家を目指す道を諦め、家族を養うため漁師にならざるを得なくなってしまう。
そんなときに出会ったのが、作家の有島武郎である。
名もない若者のスケッチの中に、有島は「個性的な見方」を見出す。
彼が、家族を捨て東京に出て絵の修行をすべきではないかと悩む木田におくったことば。
その地におられてその地の自然と人とを忠実に熱心にお眺めなさる方がいいに決まって居ます
その後、有島は木田のスケッチを見てこうも言ったという。
本当の芸術家のみが描き得る深刻な自然の肖像画だ
いちばんかっこよいのが、はじめての個展を北海道でひらいた直後、木田61才の時のことば。
台風15号(洞爺丸台風)により町の八割が全焼したといわれる「岩内大火」で、油彩・デッサンあわせて約1500〜1600点を焼失しすべてを失った彼は、こう言った。
今までの仕事は手習いの途中、これからの仕事が本当の仕事
画像は、その時に書いた絵。
「大火後の岩内港*2」
その後、彼はこんな言葉も残している。
絵とは人です
人として立派にならなければ、よい絵が描けるはずがありません
うまいでしょう
これからもっとうまくなりますよ
こんなじいちゃんになりてえな