Blow as deep as you want to blow

僕は二〇〇八年の終わりに、この文章をフランクフルトのとある部屋で書いている。
この国の歴史にその偉大なる名声を轟かせた王の名が付いた通りに面した、古い建物の中の一室だ。
室内はきっちりと改装され、現代的な生活を何不自由なく送ることが出来る。


ジャズが流れている。
心地よい雰囲気の中で僕はノートパソコンと向き合っている。
静かだ。


それでも世界は流れる。
気付けばまたガザは空爆されていて、その背後に見え隠れする大国では文明の衝突を唱えた学者が死んだ。
いつだって同じようなものだ。


ちょうど二ヶ月前に残したメモ書きがこう言う。

その頃ぼくはロンドンにいて、郊外のとある邸宅に部屋を借りて生活していた。


未曾有の金融危機、止まらない住宅価格の下落、コンゴでの人道危機...
ニュースは、呪文のように毎日同じような内容を繰り返していた。


小室哲哉は知らない間に容疑者になっていて、アメリカでは初の黒人大統領が誕生しようとしていた。


世界は流れる。
だからって、悟りを開いて隠居できるほど僕は成熟してはいないし
今すぐ200人近くが死んだその場所に飛んで現状を目の当たりにしなくてはと思えるほどの渇きもない。


遠い地中海の南東岸での出来事に怒りを燃やしたあの日の僕はたしかに僕で
今こうやってそれをさしたる感動もなく綴る僕もやっぱり僕だ。


でも。
止まってもいられない。

Submissive to everything, open, listening
Be in love with yr life
Accept loss forever
No fear or shame in the dignity of yr experience, language & knowledge

すべて、ジャック・ケルアックの"BELIEF & TECHNIQUE FOR MODERN PROSE"の中の言葉だ。


心を開き、耳を傾けろ。
生きることに恋するんだ。
失ったものを受け入れて、
自らをありのままに見つめてみろ。


ケルアックや岡本太朗の言葉は、
時に鋭く甘えを切り裂き、
時にストンと前に進む力をくれる。


放浪の作家はこうも言った。

Be crazy dumbsaint of the mind
Blow as deep as you want to blow
You're a Genius all the time

そう。元気をくれるのだ。