勝敗を分かつその一瞬に

元気な時に走るのも、序盤でシュートを決めるのも当たり前。
きつい時にどれだけ踏ん張れるか。苦しいときに確実にゴール下でシュートを決められるか。勝負の瞬間はそういう時にやってくる。
その一瞬に歯を食いしばって走れるのか、集中力を切らさずにシュートを決められるのかで、勝敗が決まるんだよ。

高校時代の恩師の言葉。きつい時ほど、苦しい時ほど本来の実力が試される。足は重くなり、心肺機能が限界を迎える。ぎりぎりで保っていた均衡が、その一瞬に一気に崩れだす。

自分がいかに弱いか、磐石だと思っていたものがどれだけ脆いか、突きつけられることになる。当たり前にやっていたことが、嘘のように出来なくなる。信じられないようなミスを犯す。そのサイクルから抜け出すことが出来なくなる。


筋力トレーニングとも似ているかも知れない。「どう考えてもこれ以上は無理だ」とそう思ったそこからが、勝負。
限界の先の1プレスが、筋肉を大きく、緊密に作りかえる。


その苦しい時間にどれだけ「あと一歩」を踏み出すディフェンスが出来たのか。相手の猛攻に耐え抜き、チャンスに自陣に向かって走ることが出来たのか。苦し紛れではなく、仲間がキャッチできる、次につながるパスが出せたか。

チームメイトを信頼し、的確なパスを出し、サポートすることが出来るか。何千回と練習してきた連携を、繰り出すことが出来るか。逃げのシュートでなく、攻めの一投を放てるか。


それがチームの経験となり、強いチームへの糧となる。


自分の弱さを、危うさを、思い知る時間。でもそれは、より強くなるためのチャンスでもある。

ゴール下でシュートを外し、パスをミスし、チャンスでトラベリングをする。決定的な場面で不必要なファールを取られてしまう。腰が浮き、一歩が遅れ、相手に簡単なシュートを放たせてしまう。チームが死ぬ気で勝ち取った1点を、自らのためにいとも簡単に奪い去られてしまう。全員で繋ぎ、何とか掴み取ったチャンスを、水泡に帰してしまう。

見苦しい姿を晒し、周囲からの期待に背き、仲間の信頼を失う。


それでも、その次の一瞬に、具体的な一歩を、ディフェンスの前足を出せるのか。何が何でもルーズボールに喰らいつき、流れを繋ぎとめられるか。

それが勝敗を分かつことがある。それが次に繋がることがある。


ミスをしたならルーズボールを奪い取るんだ。どれだけ苦しくとも。
抜き去られシュートを放たれたのならリバウンドを取るんだ。歯をくいしばれ。

あきらめたら、そこで試合終了。

限界は、自分が決めてるんだよ。人間は弱いから、身体的な限界の遥か下に精神的な限界をおくんだ。

そこを突き破れ。

いずれセカンド・ウィンドがやってくる。
苦しみの先に風が吹く。体は軽くなり、集中力が研ぎ澄まされるときが来る。


そう信じて、一歩を踏み出す。前へ進むことが出来なくとも、歯を食いしばって腰を落とす。
具体的に、動く。そのために、錆付いて軋みをあげる脳を動かして、鈍った体を動かして、渇ききった心を動かす。


小さくてもいい。具体的に、タンジブルに動くこと。
それしか抜け出す方法はない。その瞬間は、まだ過ぎ去ってない。
その一瞬はいつなのか。それはお前が決めるんだ。