心を定めさえすれば

村上春樹の、国際交流基金賞受賞についてのスピーチの中の一節。
地域も時代をも超える文化の力を信じて 村上春樹受賞スピーチ | をちこちMagazine


翻訳家としての受賞。

物語の目的とは、今ここにある現実とは離れたところにある現実からものごとを運んできて、それによって、今ここにある現実をよりリアルに、より鮮やかに再現することにあります。その原理はどこの国でも、どの時代でも変わりません。だからこそ良き物語は翻訳可能であるし、翻訳されるだけの価値があるのです。僕はそう信じています。


翻訳についての、こういう形でのメッセージは、はじめて目にしたかも知れない。


そして、こう続く。

現実の我々の世界には地理的な国境があります。残念ながら、というべきかどうかはわかりませんが、とにかくそれは存在します。そしてそれは時として摩擦を生み、政治問題を引き起こします。


文化の世界にももちろん国境はあります。でも地理上の国境とは違い、心を定めさえすれば、私たちにはそれを易々とまたぎ超えることができます。言葉が違い生活様式が異なっても、物語という心のあり方を等価交換的に共有することができます。


 そのような文化的越境が、地理上の国境を凌駕していけるかどうか、僕にはわかりません。それについてあまり楽観的にはなれない要因が多々あることも理解しています。しかし夢を見ることは、私たち一人ひとりに生来与えられた権利です。そして人々が良き夢を見ることを助けるのが、真に優れた物語の意味でもあります。僕は翻訳をし、翻訳されることを通して、その夢を見続けたいと考えています。